MESSAGE

働く人からのメッセージ

稲場弘樹さん

2020.11.18

ゴールドマン・サックス証券(株)

勤務

ゲイ当事者

稲場弘樹さん

同性婚ができないという日本の現状について、どんな風に思われていますか。

同性婚ができないのは、同性愛者に対する差別と偏見の象徴だと思っています。婚姻は多くの人に関わっている非常に身近なものなのにそれができない。つまり同性愛者が法律的に差別されているわけで、そんなことはほかにないと思うんですね。これだけ明確にされている差別だからこそ、同性婚が実現すれば社会に与えるインパクトは非常に強いと思います。

ほかの問題にも影響を与えるということですね。

社会を変える後押しになるんです。社会の認識が変われば、LGBTであることをオープンにしても良いかなと思う人も増えてくると思います。自分を隠さずに働ける環境でこそ自分の能力を最大限発揮できるでしょうし、つまりそれは企業が求めていることでもありますよね。だから、企業にはこの問題に取り組んでほしいと思っています。

今はカミングアウトして働いていらっしゃいますが、過去の職場ではどうでしたか。

以前は、日本の金融会社や外資系の証券会社で働いていました。日本の会社にいたのは、90年代で、同性愛が変な病気か趣味みたいに考えられていた時代ですから、職場でカミングアウトすることはまともな社会人人生を送るには自殺行為でしたね。つまり隠さなきゃいけないし、人に知られてはいけないことだった。人に知られることが仕事を失うことにつながりかねないので、気が気でなかったです。

それは精神的に大変な毎日ですね。

カミングアウトした今だから感じることですが、カミングアウトできずにいた頃は、ゲイであることを隠すのにかなり労力を使っていたんですね。その分、仕事に対する集中力が欠けていることもあったと思います。それに一緒に仕事をするチームのメンバーとのコミュニケーションも、カミングアウトしている今のほうがいいです。週末何をしたとか、今夜はこんな予定だとか、日常的なことを気にせずシェアできると、コミュニケーションがよくなりますよね。誰を好きになるのかというのは人間にとって大事な基本的なことなので、それを隠しているのは知らず知らずに仕事にも影響を与えていたんです。

そんな状況では、結婚という選択肢があることなんて、考えることもできないですよね。

想像できなかったですね。同性婚に関しては、2001年にオランダで初めて実現したので、結婚という選択肢があることを考えていなかったですね。結婚ができるからといってするかどうかは別ですけど、選択肢があると好きな人ができたときに結婚について考えますよね。異性愛の方々と同じように考えるようになってくるでしょうね。同性婚ができない今は、結婚について考える、ということすらないですから。

ほかに、同性婚が実現していないことの影響を実感するときはありますか。

いろいろな企業から相談されることも多いんですけど、先進的な企業だと同性カップルにも異性カップルと同じように福利厚生を考えようとしているところも多く、たとえば結婚祝い金みたいなものを同性カップルにも出しましょうと。でも、異性カップルについては申請だけでOKしているのに、同性カップルにはどんな書類を提出してもらえばいいでしょうか、となる。

それはおかしいですよね。

そうなんです。同性婚が認められたら、異性の婚姻は申告制で、同性の婚姻については証明書の提出が必要というのは差別だと誰でもわかりますよね。先進的な取り組みをしようとしてる、しかも人事部の人でも差別をしているんだということに気づかない、そういうことはありますね。差別する気はないんだけど、同性婚がないがために、異性カップルと同性カップルは何か別のものだと思ってしまっているわけです。

そこで企業ができることはどんなことがあるでしょうか。

企業は、LGBTに関していろんなことに取り組んでいってほしいです。わたしは法務部なんですが、その同僚がこんなことを言ってました。“人は違う切り口で見れば誰でもマイノリティだし、誰でもマイノリティになりうるんです。LGBTというひとつのマイノリティのグループに対して優しい会社はほかのマイノリティに対しても優しいから、とても居心地がいいです”と。会社全体として、一人一人の力を発揮してもらうためには、その人のマイノリティ性が障害にならない職場であることが必要だし、自分を隠すことなく自分らしく働けることで、100%、200%の能力が発揮できるんですよね。それが生産性を上げることにつながると思うし、その点からも企業にはこの問題にしっかり取り組んでほしいです。

構成 村山 幸

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