INITIATIVE
企業による取り組み
2026.02.23
野村不動産 / Business for Marriage Equality
DE&I担当者による企業交流会 〜婚姻の平等を考える〜(東京)
2025年9月30日、東京・芝浦に誕生した「ブルーフロント芝浦」で、婚姻平等(同性婚の法制化)をテーマにしたイベントを開催しました。Business for Marriage Equalityとして東京でイベントを開くのは約1年ぶり。会場は、婚姻平等への賛同企業である野村不動産株式会社にご協力いただきました。
プログラムは三部構成。第一部では野村不動産によるD&I(ダイバーシティ&インクルージョン)の実践紹介、第二部ではLGBTQおよび婚姻平等訴訟の最新動向アップデート、そして第三部では学生によるトークセッションを実施しました。イベント後には交流会も行われ、企業の取り組みから若者世代の「会社選び」の視点、企業間での意見交換まで──多様な立場の声が交わる、学びと対話のひとときとなりました。
対話から始めた、野村不動産のD&Iの歩み
最初の登壇は、野村不動産ホールディングス株式会社 執行役員であり、グループダイバーシティ&インクルージョン推進担当の宇佐美直子さんです。同社のD&I推進の歩みを具体的にお話しいただきました。
宇佐美さんは、2022年4月にD&I推進担当役員に就任して以来、「なぜD&Iが必要なのか」を明確にするため、社内外の関係者へのヒアリングを重ねたといいます。
「事業が多角化する中で、働く人の多様性が伴わなければ新しい価値は生まれません。D&Iの推進は、事業成長のための必然です。」
社内でD&Iの方針を“憲法”のようなものとして位置づけたうえで、最初に取り組んだのは「育休取得率の向上」でした。2022年10月には「男女とも育休取得率100%」を掲げ、わずか1年で男性社員の取得率を38%から103%に伸ばしたそう。
「D&Iは一度にすべてを変えることはできません。ボーリングで言う “1本目のピン”を倒すことが、次の変化を生み出します。」
また、同社は不動産デベロッパーとして、社外のステークホルダーと共に進める「インクルーシブデザイン」にも力を入れています。実際に障がいのある方や多様な背景を持つ方々とともに施設を検証し、意見を取り込み事業への組み込みを試みているとのことです。
「人権尊重とD&Iはグラデーションの関係にあります。どちらか一方ではなく、両方を行き来しながら進めていくことが大切だと思っています。」
宇佐美さんは最後に、「同性婚法制化への賛同も、私たちにとって大きな一歩でした」と語り、D&Iを「継続的に学びながら進めるもの」として結びました。
次の世代に、多様性をつなぐ──虹色ダイバーシティ 村木真紀さん
続いて登壇したのは、NPO法人虹色ダイバーシティ代表の村木真紀さんです。大阪を拠点に長年LGBTQ支援に取り組んできた村木さんは、社会の変化を肌で感じながら、地方・教育・企業、それぞれの現場で進む動きを紹介しました。まず、「LGBTQIA+」「SOGIESC(性的指向・性自認・性表現など)」といった基本的な用語を丁寧に説明した上で、「企業や行政がこの言葉を正しく理解することが、すべての出発点になります」と強調しました。
「社会の可視化は進んでも、性的マイノリティの方々の心の健康にはいまだ格差があります。10年以上たっても改善されていない現実があります。」
さらに、地方での取り組みや若い世代の変化に焦点が当てられました。村木さんは、地方都市でのD&I推進が「地域の持続性」と直結していることを指摘し、「誰もが暮らしやすい地域づくりが、若者が地元に残る理由にもつながる」と語りました。また、教育の現場でも変化が起きているといいます。ジェンダー平等がSDGs教育の一環として定着し、近年では中高生の間でもLGBTQに関する関心が高まっています。虹色ダイバーシティでは、プライドセンター大阪を拠点に、中高生向けの授業プログラムを新たにスタートしました。
「10代の子どもたちは“多様性を学ぶ”世代です。だからこそ、これから社会に出たとき、職場がその価値観を受け止められるかどうかが問われると思います。」
企業に対しては、「社員の子どもや地域の若者とも接点を持ちながら、多様性を次世代につなげていくことができる」と呼びかけました。
後半では、近年SNS上などで見られる“反DEI”の風潮にも触れました。差別的な言動や誤情報が拡散され、当事者が傷つくケースが増えている現状を挙げながら、「だからこそ、アライの存在がより重要になっています」と語りました。
「誰かが無理解な発言をしてしまったとき、そばにいる人が声をかけられるかどうか。それが職場の文化をつくります。」
そして、自身も小学生の子を育てる親としての視点から、「社会の側が変わらなければ、子どもに説明ができない現実がある」と語りました。そして最後に、企業へのメッセージとして、次のように締めくくりました。
「企業ができることはたくさんあります。たとえばLGBTQの生活上の困りごと──住宅や保険、福利厚生などの制度を見直すこと。従業員の中にも多様な人がいるという前提で、対話を重ねながらダイバーシティ施策を進めること。 “なぜこれをやっているのか”を問い直しながら対話を続けることが、いまいちばん大切だと思います。」
ユースが語る、これからの「会社選び」
トークセッションでは、関西から学生が登壇しました。京都・大阪を拠点にそれぞれD&IやLGBTQに関する活動を行う3名が、就職活動のリアルや「企業選び」における多様性の視点を語りました。
「活動が“特別”でなくなる日を目指して」
最初に発言したのは、一般社団法人ひとこと D&I事業部「にじのわ」代表の市さん。京都を拠点に、LGBTQを題材とした映画上映会や交流会、京町家を活用したオープンスペース運営など、学生主導で多様な活動を展開しています。
「映画を観て“こんなこと感じた”と語り合う。そこから“社会ってこうだよね”という対話が自然に生まれるんです。私たちがやっていることが、特別な活動じゃなく、どんな人でも関われる普通のことになってほしい。」
市さんは、活動の輪を広げる中で感じた“情報の届きにくさ”にも言及しました。
企業のD&I施策に関する情報が就職サイトや企業ページで見つけにくい現状を踏まえ、「学生側からも“知りたい”という声を上げていきたい」と語りました。
「企業と学生が双方向に発信し合える関係をつくることが、次の世代の働きやすさにつながると思います。」
「“前提”を疑うところから、対話は始まる」
続いて登壇したのは、立命館大学LGBTQ+活動団体rall.所属の4年生の清野さん。LGBTQ+をテーマにした研究や団体活動を行っており、就職活動でもその経験を率直に話してきたといいます。
「LGBTQ+に関する取り組みについて話した際、当事者かどうかに関しては特に話していないのに、面接では“当事者ではない”という前提で質問されることがありました。『当事者じゃないのにどうしてそんなに頑張れるの?』と聞かれることもあり、そこに違和感を持ちました。」
また清野さんは、活動の経験を話すことで、企業側にも新たな気づきが生まれる場面があったと振り返りました。
「面接官の方が“知らなかったことを知れた”とおっしゃってくださることもありました。だから、伝えることで何かが変わるかもしれない、そう思っています。」
「見た目や噂ではなく、“人として”話す」
最後に話したのは、関西大学大学院博士前期課程2年のデニスさん。学生団体「Your Voice Lounge」の代表として活動し、プライドセンター大阪でもスタッフを務めています。
「出身や見た目を理由に“どこ出身ですか?”と毎日のように聞かれます。悪気がないのは分かるけれど、それが前提になってしまうのは少し違うと思うようになりました。マイノリティの中には“目に見えるアイデンティティ”もあれば、“見えないアイデンティティ”もあります。見た目や第三者から聞いた情報で判断するのではなく、まずは“人として話す”ことが大切だと思います。」
デニスさんは、自身の経験を踏まえながら、企業に求めるのは「完璧な理解ではなく、話し合おうとする姿勢」だと語りました。
「相手を知ろうとする意欲があるだけで、安心して話せる。そういう雰囲気を持つ会社が増えてほしい。」
3人の話を受けて、宇佐美さんは、企業の立場から次のように応じました。
「当社ではLGBTQだけに特化するのではなくⅮ&I全般を推進しています。、そのようななか、分譲マンション「プラウド」に携わる社員有志による“アライチーム”が自然に生まれ、昨年初めて“Tokyo Pride”にも参加しました。若手社員も自発的に関わっています。」
学生からは服装やカミングアウトのしやすさ、研修などについても質問が寄せられ、宇佐美さんは「匿名で相談できる外部窓口を設け、全社員が1on1面談で安心して話せる仕組みを整えています」と紹介しました。制度だけでなく、「対話と信頼を通じて職場をより良くしていく」──そんな姿勢を感じさせる言葉で、セッションは締めくくられました。
文・写真:岩村隆行



