INITIATIVE
企業による取り組み
2025.09.04
オランダ王国大使館・オランダパビリオン / 認定NPO法人虹色ダイバーシティ / Business for Marriage Equality
「婚姻の平等、その先の社会:オランダ王国大使館とともに考える」―大阪・関西万博オランダパビリオン
2025年8月7日、大阪・関西万博のテーマウィーク「平和と人権(8月1日〜12日)」に合わせて、オランダパビリオンにて、「婚姻の平等、その先の社会:オランダ王国大使館とともに考える」と題したイベントを開催しました。オランダ王国大使館、Business for Marriage Equality、認定NPO法人 虹色ダイバーシティの共催により実現したものです。
世界で初めて同性婚を合法化したオランダと、現在も法制化に向けた議論が続く日本。両国の現状とこれからを見つめ直し、国、企業、ソーシャルセクター、ユース、というそれぞれの立場、視点からの意見交換を通して「婚姻の平等」の意義や重要性を深く掘り下げる内容となりました。

はじめに:虹色ダイバーシティ 有田さん
冒頭、司会を務めたNPO法人虹色ダイバーシティの有田さんより、本イベントの趣旨が語られました。「私たちが目指すのは、誰もが自分らしく生きられる社会。その一歩として、今日ここに集まった皆さまと一緒に“婚姻の平等”を起点に多様性の尊重について考える機会を持てることに、深い意味があると感じています。」企業や行政、教育機関など多様な領域から参加者が集まっていることに触れ、「婚姻の平等実現のための最重要イヤーである今、立場の違いを越えて意見を交わせる場であることが今日の価値のひとつです」と語りました。
スピーチ:オランダパビリオン プロジェクトディレクター アイノ・ヤンセンさん
続いて、オランダ王国外務省のアイノ・ヤンセンさんより、オランダパビリオンの理念と婚姻の平等についての歓迎の言葉が述べられました。「オランダでは、すべての人が自分らしく生きることが共通にある価値観です。今回の万博パビリオンも、“コモングラウンド”をテーマに掲げており、今日のイベントもその体現のひとつです。日本でも一人ひとりが平等に尊重される未来が近づいていると信じています」と語り、参加者の期待感も高まりました。

日本における婚姻の平等に関する裁判状況:Marriage For All Japan 寺原真希子さん
続いて、Marriage For All Japanの寺原さんより、現在進行中の「結婚の自由をすべての人に」訴訟の状況が詳しく報告されました。現在、札幌・東京・名古屋・大阪・福岡の5地域で訴訟を展開し、全ての高裁で『同性婚を認めないのは違憲』という判断が出ていることを紹介しました。判決文に記された“個人の尊厳”や“法の下の平等”といった憲法上の価値に言及し、「裁判所が私たちの主張を正面から受け止め始めていることに、確かな希望を感じています」と語りました。
来年中には最高裁で1つの統一した判断が出るであろうとした上で、司法判断と立法の動きにはギャップがあるとも指摘。司法判断を社会と政治にどう伝え、どう動かすかがその次のステージであることを伝えました。

オランダにおける婚姻の平等とLGBTQの現状:オランダ王国大使館 広報・政治・文化部の政策オフィサー キム・ダンさん
オランダ王国大使館のキム・ダンさんからは、2001年に世界で初めて同性婚を法制化したオランダの現状とその変遷が紹介されました。「オランダでは、婚姻の平等は社会の前提として根付いており、学校教育でも多様な家族のかたちが当たり前のように扱われています。」一方で、「制度が整っても偏見はゼロにはならない。だからこそ、法制度と文化的理解の両輪が必要なのです」との課題も示されました。

パネルトーク:多様な立場から語る婚姻の平等
国、企業、ソーシャルセクター、ユース、というそれぞれの立場、視点から①婚姻の平等の必要性、取り組む意義、②婚姻の平等実現に向け、1人1人ができることという2つのテーマでトークセッションを行いました。

積水ハウス株式会社 ダイバーシティ推進部 木原淳子さん
同社が掲げる“「わが家」を世界一幸せな場所にする”という理念のもと、木原さんは「企業が多様な家族を受け入れることの意義」について語りました。「私たちは2019年に「異性事実婚・同性パートナー人事登録制度」(社内規則・制度に記載の「配偶者」については「異性事実婚」「同性パートナー」も含むものとし、配偶者と同等の扱いをする制度)を導入しました。当初は少数の利用でしたが、制度があることで“安心して働ける環境”を提示できることが企業ブランドに大きく影響します。」
木原さんは、社内の規定文書から「配偶者」という表記を「配偶者・パートナー」に変更したり、社員研修で性的マイノリティへの理解を促進する講座を導入したことも紹介。「住宅産業においては“家族”の定義が商品設計に直結する。だからこそ、私たちが先んじて姿勢を示すことが重要なのです」と語りました。

NPO法人ReBit 代表理事 薬師実芳さん
薬師さんは、同性パートナーと家族として暮らすなかで直面するさまざまな不平等を、調査や実体験から紹介し、「制度がないことで、生活のすべてが『不安定』になってしまう」と語りました。
具体的には、医療や入院時に家族として医療同意や面会ができないこと、介護を担う際に「家族ではない」とされ申請ができないこと、さらにパートナーが亡くなった後も遺族として認識・認定されないことなどを挙げ、「制度が存在しないことが、家族として暮らすうえでのさまざまな“あたりまえ”を脅かしている」と指摘しました。
また教育現場やユースの現状についても触れ、「10年前と比べ『LGBTQ』という言葉は広く浸透してきたものの、LGBTQのユースたちは『将来、同性のパートナーと家族として生きられる』というビジョンやロールモデルを未だ持てず、未来への不安の大きな要因となっている」と現場の課題を提示。そのうえで、「だからこそ、婚姻制度の実現は子どもたちにとっても“希望を育てる法制度”になるのでは」と語りました。

一般社団法人ひと&コト D&I事業部にじのわ D&I事業部長 市(いち)さん
10代〜20代の若者世代の視点から登壇した市さんは、自身の経験を振り返り、「好きな人の話を友達にするのが怖かった。存在が否定されることがあると、人とつながることそのものが不安になってしまう。」法的な承認が「社会からの承認」となることで、若い世代が“未来を信じられるようになる”と語り、「ユースが声を上げられる場を増やしていきたい」と語りました。
また、「企業が声を上げることや、企業が行うアクションが、例えば介護とか病気とかいろんなときにもこの会社だったら多分添ってくれるだろうっていう安心感がすごくある」「企業の姿勢の影響力は大きい」というコメントに、会場の参加者も大きく頷いていました。

Marriage For All Japan 寺原真希子さん
寺原さんは、「婚姻の平等の実現によって性的マイノリティが直面している差別・偏見のすべてが解決されるわけではありませんが、大きな第一歩になることは間違いありません。」と話しました。また、個人としてSNSで発信する、企業が賛同を表明するなど具体的なアクションが司法にも国会にも大きな影響力があることを伝え、「性的マイノリティに対する人権侵害を解消する責任は、自分を含む性的マジョリティにあると考えています。」と力強く語り、会場からも多くの共感の声が寄せられました。

オランダパビリオンツアーと懇親会
プログラムの後半では参加者はオランダパビリオンのツアーに参加しました。未来的なデザインやオランダのサステナビリティ・インクルージョンへの取り組みが紹介され、感嘆の声が上がりました。その後の懇親会では、登壇者と参加者が世代や立場を越えて活発な意見交換を行い、会場は終始温かい雰囲気に包まれました。「違いを力に変える社会へ」──その未来に向けて、共に一歩を踏み出す時間となりました。

文・写真:岩村隆行