INITIATIVE

企業による取り組み

2020.11.18

PwC Japanグループ

リーダー対談 Marriage For All Japan 共同代表 寺原真希子 × PwC Japanグループ ダイバーシティ推進リーダー 梅木典子

婚姻の平等の実現(同性婚の法制化)というミッションを掲げ、性のあり方にかかわらず誰もが結婚するかしないかを自由に選択できる社会を目指すMarriage For All Japan(以下マリフォー)。そして、同性婚法制化への賛同企業としてLGBTインクルージョンを積極的に推進し、プロボノ活動としてもマリフォーを支援するPwC Japanグループ(以下PwC)。Business for Marriage Equality賛同キャンペーン、および経済効果レポート発行を受け、リーダー対談が実現しました。

写真左:梅木典子(PwC Japanグループ ダイバーシティ推進リーダー) 写真右:寺原真希子(一般社団法人 Marriage For All Japan共同代表) 2020/10/15 PwC 大手町オフィスにて

社会の意識喚起が必要

寺原:2019年2月14日のバレンタインデーに、札幌、東京、名古屋、大阪の4箇所で同時に「結婚の自由をすべての人に」訴訟が提起され、その後、福岡も加わって、現在5つの地方裁判所で裁判が進行中です。私はその東京弁護団の共同代表を務めていますが、これは、同性カップルの結婚が認められていない現状が憲法違反であることを正面から問う、日本で初めての訴訟です。同性婚の必要性について、社会の理解が十分でない状態なので、社会的ムーブメントを起こさなければ裁判上も勝てないと考え、2019年1月にマリフォーを設立しました。弁護団の中の有志とその他の分野のプロフェッショナルが活動に参加しています。マリフォーでは3つミッションを掲げています。1つ目が、今の訴訟を全面的に支援すること(司法ルート)。2つ目が、国会議員に働きかけて法律改正を促すこと(国会ルート)。3つ目が、司法ルートと国会ルートを加速させるために社会の意識喚起をすることです。訴訟については、もっとも進みの早い札幌地裁の判決が2021年3月に出る予定なので、それが最初の大きな山となります。

梅木:法律の問題であり、宗教の問題でもあります。同性愛だというだけで犯罪者扱いされる国もあるということを以前、社内のダイバーシティ勉強会で聞き、とてもショックを受けました。また、精神的な面においても、無関心や無意識の差別等、根が深い問題だと思います。

寺原;私も、「無関心」が問題だと思っています。差別をしているつもりはないけれども、知らないうちに差別偏見に加担した結果となっているという状況があると思います。

梅木:困っている不平等さについて、大多数の人たちが少しでも理解することで、LGBTの方々にとって世界が変わります。そういう社会にしていきたいですね。

寺原:最近も、世論調査上は同性婚への賛成割合が78%という高い数値が出ているのですが、実際に同性婚について考える機会がない人はまだまだ多いと言わざるを得ないと思います。

梅木:考える機会がない、理解が足りないというのが現状であり、だからこそ教育・啓発活動が重要です。知ってもらうために、パレードに参加したり、セミナーや就職時の説明を行ったりしています。

寺原:同性婚を認めることで不幸になる人はおらず、幸せな人が増えるだけです。多くの人にLGBTの方々の現状や苦悩を理解して頂きたいと感じています。

梅木:固定観念やバイアスを植え付けているのは自分たち大人なのだということを知らなければいけないと思います。私の息子が通っていた小学校で、遠足に行く時にピンクのリュックを背負って、髪を長く伸ばしている男の子がいたのですが、周りの子どもたちも親も一切何も言わずに受け入れていました。「あぁ、偏見は大人が植え付けているのだ」とその時、気づかされました。

寺原:私も似たような経験をしたことがあります。以前自分の子どもの小学校の道徳の授業でLGBTへの理解について講演を行った時、子どもたちは多様性の存在自体になんの疑いも持たず、「お友達がカミングアウトしてきてくれたら具体的にどうサポートしたらいいですか」とか、「自分が知らない間にクラスメートを傷つけていたかもしれないと反省しました」といった反応が返ってきたんですね。講演を聞いていた保護者が、「子どもたちの反応を見て、親である自分たちが偏見をもっていないかを振り返る機会になった」と口々に私に話にきてくれたのが印象的でした。子どもの反応を見て大人が変化するということがあると思います。

梅木:わが子の素直な反応が、保護者の方には大きな衝撃だったのですね。良い気づきになったのではないでしょうか。子どもたちは平日のほとんどの時間を学校で過ごすわけですから、友達や先生の影響は非常に大きく、幼稚園や小学校に入った時から理解を深める教育をしていれば、皆違っていて当然と思えるようになるのではないでしょうか。

寺原:日本では「周りから浮かない」ということを強いられがちで、地方に行くほどその傾向は強いともいえると思いますが、それは子どもの頃からの教育で変えることができると思います。

梅木:地方は海外から来た方にやさしい等、非常にインクルーシブな面もあります。同質な人だけでなく、見た目や肌の色等外見上明らかに自分と異なっている人には手を差し伸べられる一方で、同性愛の方のように外見では見えないところで自分とは異なる部分があることに気が付いたとき、拒否反応が大きくなってしまうのかもしれません。

ありのままを受け入れる企業づくりのキーは「継続」

梅木:PwCのダイバーシティ活動が始まったのは2012年で、米国など各国の商工会議所が合同発表した婚姻の平等に関する提言には2019年に賛同しました。LGBTインクルージョンもダイバーシティのテーマの1つとして取り組もうという自然な形でした。PwC社員全員がLGBTの方々に対する理解を深めることに取り組んでいます。理解を深める活動というのは、実施するとその一時点では一気に盛り上がるのですが、時間がたつとすぐに効果が無くなってしまいます。だからこそ、継続して取り組むことが大事であり、カルチャーを変える、人のマインドを変えることにつながるのだと思います。ダイバーシティ&インクルージョン(以下D&I)がDNAに組み込まれた組織にするには、永遠に活動を続けなければいけないと思っています。PwCでは活動を続けてきたおかげで、LGBTインクルージョンについての社内の関心も非常に高いです。2013年の社内研修で東京レインボープライド共同代表理事の杉山文野さんに講演に来ていただいたのですが、その時は会場が満席となり、皆話を聞きながら泣いていました。最初は知的好奇心で集まってきたのですが、ハートに響いているのです。私もとても感動しました。その時にLGBTインクルージョンの活動をやっていこう、とても大事なダイバーシティの柱であると思いました。その後も折に触れて、虹色ダイバーシティの村木真紀さんや、LGBTとアライのための法律家ネットワークの藤田直介さんにPwCで講演していただきました。藤田さんの講演ではPwCの役員もパネリストとして参加していたのですが、話を聞きながら真剣にメモをとっていた姿が印象に残っています。その他にも、VRを使ってレズビアンの当事者になったという設定で疑似体験をしました。本当の自分を友達に言えず、恋人のことを「彼女」ではなく「彼」と言い換えるというストーリーに心が苦しくて、LGBTの方はこんな切ない思いをしているのかと初めて知りました。男性の同僚も涙を流していました。しっかり心に響いていたのです。PwC内での理解が得られてきており、LGBT支援活動をする人が増えています。また、このような取り組みをするのは当然であるという企業風土が出来てきていると感じます。

梅木:先程、教育・啓発活動が大事という話が出ましたが、職場での人権教育・啓発も大事だと思います。親が子どもに与える影響は大きく、親の立場にいる人たちを啓発していくことは重要です。企業の立場から見ても、性のあり方にかかわらず生き生きと仕事ができる環境だと認識してもらうことは、優秀な人材の確保に繋がります。ありのままの自分を受け入れてもらえるという企業風土を作っていくことを、他社との差別化要因の1つとして戦略的に持っておくことは、企業にとって非常に重要なポイントだと思います。LGBTの方々を「支援する」ということではなく、実は企業自身のためでもあると考えています。自分事として捉えることが重要だと思います。

梅木:社内でLGBTインクルージョン活動を実施していると、実は良いことがたくさんあります。LGBTインクルージョンの社内セミナーに参加した役員が、気づいたことや心からサポートしていきたいという思いをメッセージにして発信してくれます。また、LGBTインクルージョンの活動の案内メールを社員全員に発信するのですが、カミングアウトしていないLGBTの方々も、とても安心してくれているようです。それは年に一度の従業員満足度調査のスコアに表れています。LGBT当事者であると答えた人たちの満足度は、他の属性の人たちよりも高いのです。この結果はとても嬉しいですし、活動の手応えを強く感じます。結果として、カミングアウトしてくださる従業員も少しずつ増えています。

寺原:企業ができることはたくさんあると思います。PwCという大企業が同性婚への賛同を表明しているという事実自体が、社内外のLGBTやLGBT以外の方々にも励みになると思います。LGBTの方々は、自分の人生における「結婚」というステージを想像することすらできずに生きてきたわけですが、PwCを含む多くの企業が同性婚への賛同を表明するのを目にすることで、「当然の権利なんだ」と勇気づけられる方が多いのではないでしょうか。一弁護士にはできない、企業だからこそできることですよね。

梅木:LGBTインクルージョンの活動をしていると、同じ活動をする方々とのネットワークがとても大事であると思います。色々な人に会うことで、勇気と力をいただきます。身近なところでサポートしてくれる人が確実に増えていますし、世界も日本の社会も、少しずつ変化しているのが見られます。レインボープライドのパレードも毎年参加者が増えており、ここまであきらめずに続けていらした主催者の方々のご尽力が素晴らしいです。これから、もっと社会は変わっていくことでしょう。

寺原:2015年から2020年の5年間の日本社会の変わりようはすごいですよね。2015年に渋谷区のパートナーシップ制度ができたのをきっかけに、LGBTという言葉が浸透し、同性婚訴訟も提起され、野党からは婚姻平等法案も提出されました。この5年でこんなに変わったのだから、次の5年で更に大きく変えられるはずだと思っています。

すべてのひとが活躍できる社会へ

寺原:海外の例でいうと、アメリカやオーストラリアでは多くの企業が同性婚への賛同を表明し、裁判所に意見書を出したりキャンペーンをしたりして、同性婚の法制化に大きな影響を与えました。日本でも、多くの企業と連携することで、法制化への動きを加速させていければと思います。

梅木:日本の企業の中に、賛同企業がもっと増えていってほしいです。今までは人権の問題であったことを、企業の問題として日本企業の賛同につなげるものとして、今回の経済効果レポートは活用できると思います。こんなにも少子高齢化が進み、コロナ対策に税金を投入している状況下では、生産性を上げないと国としてのGDPを上げる方向に持っていくことができません。そのことに気づかせるという意味で、この経済効果レポートは良い取り組みだと思います。次の5年間の企業ムーブメントの変化につながっていければ良いと思います。

寺原:アメリカで同性婚の父と呼ばれている弁護士がいるんですね(エヴァン・ウォルフソン氏)。その方曰く、「人の価値観を変えて同性婚を認めさせるのではなく、その人がもともと持っている価値観に同性婚を認めることがマッチするということに気づいてもらうことが重要だ」と。同性婚を希望する人たちは、今ある結婚制度を壊したいと思っているわけではなく、今ある結婚制度の中に入れてほしいと言っているだけなんです。「同性婚を認めると家族が崩壊する」として反対する方がいますが、そういう人が大切にしている「家族」という価値観を変える必要はなくて、その人が大切にしているのと同様に、同性カップルも「家族」という価値観を大切にしていて、だからこそ、異性カップルと同じように法的な「家族」として認めてほしいと訴えているわけです。

梅木:私はLGBTインクルージョンの活動に取り組むようになってから、色々な書類に性別欄があるのはなぜだろうと疑問に思うようになりました。Webでのアンケートは工夫されてきて、性別について「答えたくない」という3つ目の回答オプションを作るところがずいぶん増えてきましたが、やはり動きが遅いところもあります。

寺原:アンケートの関連でいうと、国が5年に一度実施している国勢調査は、実態を把握してその結果を政策に反映させるものですが、異性カップルの場合は事実婚でも配偶者としてカウントしてもらえるのに対して、同性カップルだとそれが認められていないという現状があります。マリフォーではそれはおかしいということでレインボー国勢調査キャンペーンを行いました。同性カップルをカウントしないということは、実態を把握するという国勢調査の趣旨にそぐわないですし、実際、多くの自治体がパートナーシップ制度を導入しているということは、同性カップルがどの地域にも居住していることを示しています。自治体が実態を理解してLGBT施策を行うために、国勢調査で同性カップルをきちんとカウントしてほしいという声が、自治体からも出ています。

梅木:私は今PwCでダイバーシティ推進リーダーという立場におります。この立場を利用して、PwCの力を使って色々なところに影響を与えて社会課題を解決したいと思っています。PwCグローバルのリーダーにも日本のリーダーにも働きかけていきます。

梅木:積極的にLGBTの方々を支援しますという人も増えていますが、まだまだ知識が無い人も多いのが現状です。社内研修やVRのイベントを実施した後、アライを示すシールをスマホに貼ったと言っている方がいました。そういう人が増えることで、社会はすごく変わると思います。

梅木:ダイバーシティの活動をする上で、自分以外のことに関心を持つかどうかが重要です。ただ目の前の仕事をするだけでなく、周囲の人々や社会の課題にアンテナを張れるかどうか。自分の行動が社会の役に立ち、すべてのひとが活躍できる社会になっていくように、今後も活動を続けていきたいと思っています。

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